量子コンピュータの進化が加速する中、仮想通貨業界はビットコインなど暗号資産の防御を強化するレースを繰り広げている。専門家らは、2030年以降には量子コンピュータがビットコインの暗号を解読できるようになると警告している。
NVIDIAと提携する量子コンピューティング企業Alice & BobのCEO、テオ・ペロナン氏は2025年11月のWeb Summitリスボンで、「ブロックチェーンネットワークは2030年までに分岐(フォーク)する必要がある」と語った。「量子コンピュータが本格的な脅威となるのはもう少し後ですが、そのタイミングは確実に近づいています」と続けた。
量子技術は現時点では仮想通貨にとって差し迫った脅威ではないが、過去数年間で飛躍的な進歩を遂げている。2025年10月、Googleは「Quantum Echoes」アルゴリズムで従来型スーパーコンピュータの13,000倍の速度で処理を行ったと発表し、Alice & Bobは競合他社に比べて最大200分の1のハードウェアで動作可能なエラー訂正技術を実証した。
現在、多くの専門家が危機感を強めている。ブロックチェーン分析企業のChainalysisやProject Elevenによると、約7,180億ドル相当のビットコインが、量子攻撃に脆弱なアドレス(公開鍵が既にブロックチェーン上で公開されているアドレス)に保管されているとのことだ。これらの資産は、量子コンピュータが私有鍵を導き出せるようになれば標的になり得る。
イーサリアム共同創業者のヴィタリック・ブテリン氏も2025年11月、量子コンピュータが2028年米国大統領選挙以前に楕円曲線暗号を破る可能性について警鐘を鳴らし、イーサリアムエコシステムの量子耐性対応を4年以内に完了する必要があると訴えている。
米国国立標準技術研究所(NIST)は2024年8月に量子耐性アルゴリズム(ML-DSA、ML-KEM)を標準化した。2025年10月にはBTQ TechnologiesがNIST標準準拠のML-DSAを採用した量子耐性ビットコインの実証に成功し、2026年の量子セーフメインネット立ち上げを目指すと発表。また、Project Elevenは6百万ドルを調達し、ポスト量子時代の資産管理プラットフォーム開発に取り組んでいる。
一方、BlockstreamのCEOで暗号学者のアダム・バック氏は、量子脅威が現実になるのは「20〜40年後」とみており、「ビットコインは十分な猶予期間の中で段階的に対応可能」と述べている。業界関係者の間では、量子コンピュータによる現行暗号の脅威が現実となるのは「5〜15年後」という見方が広がっている。
